トラちゃん、妊婦になる。

トラちゃんの不妊手術はとうとう間に合わず、春の発情期を迎えて妊娠してしまった。

日に日に大きく膨らんでいくトラちゃんのお腹を見ていると、不安な気持ちがどんどんと込み上げてくる。

もしトラちゃんが何匹も子猫を産んだらどうすればいいのか…？

姉御に聞いてみたところ、猫は1度に2～4匹くらいの子猫を産むらしい。

多い時は5～6匹のこともあるそうなので、ひょっとするとトラちゃんが多数の子猫を連れてくる日がやってくるのかもしれない。

そう考えると、少し楽しみなような気もしたのだが、トラちゃんが無事に出産できるかどうかの心配の方が大きかった。

元々ふっくら体型のトラちゃんだったが、妊娠から時間が経つに連れて一層とお腹の膨らみが目立つようになった。

地面に引きずってしまいそうなほど大きなお腹を重たそうに歩く姿は、見ていて気の毒になるほどだった。

そんなトラちゃんを見守っていた僕にとって、最も驚かされたのは底なしの食欲だ。

人間の妊婦さんだと食欲が不安定になって食べたり食べなかったりだが、トラちゃんはあげればあげるだけ平らげるほどの食欲を見せた。

これほどの食欲だとご飯がもらえない野良猫だと、妊娠した後に大変な思いをするに違いない。

そう考えると、いろんな人からご飯がもらえるトラちゃんは、野良猫の中では環境に恵まれていると言えるだろう。

こうしてトラちゃんは臨月を迎えるまで、大きなお腹を揺するようにしながら、たっぷりとご飯を食べて毎日を過ごしたのだった。