保護猫シェルター奮闘記

保護猫シェルター設立への道(その3)

保護猫シェルターを作るため、私はいわゆる訳アリ物件を借りることにしました。

賃貸に必要な契約や手続きをひと通り済ませた後、あらためて室内を眺めてみると、想像以上に荒れ果てた光景が広がっていました。

しかも、散らかっているというだけではなく、どことなく生活感が残っている雰囲気があり、妙な不気味さも漂っていたのです。

しかし、ここに住むのは猫だけですし、多少は気味が悪かったとしても問題はありません。

何より賃貸条件に恵まれていることを考えれば、ここ以外の選択肢は無かったように思えます。

こうして訳アリ物件を契約した私は、保護猫シェルターの実現を目指して荒れた一戸建ての片づけをはじめることにしたのです。

荒れ果てた室内。放置状態ながらもどこか生活感が残っている。

内見の時はじっくりと室内を眺める余裕は無かったのですが、まじまじと室内を見渡してみると想像を絶するほどの散らかりようでした。

なかでも私が一番驚いたのは、元の家主さんの個人情報が放置されていたことです。

名前や年齢が分かるような書類だけではなく、元の家主さんの病状を示すような保険証券なども全て放置されていました。

個人情報の扱いがセンシティブなこのご時世に、ここまで個人情報が放置されているのは驚愕に値します。

話によると、今のオーナーさんは元の持ち主さんの血縁者では無いそうなので、この状態で家を手放したことには感覚のズレを感じずにはいられません。

とは言え、この状態だからこそ好条件で一戸建てを借りられたのですから、これも巡り合わせのようなものでしょう。

私は元の家主さんの個人情報にあたる書類をまとめて、散乱しない状態にしてから処分することにしました。

いざ片付けはじめてみると、サイドボードや戸棚の引き出しなど、あらゆる所に個人情報の書類が放置してありました。

引き出しから出てきた保険のパンフレット。この他にも大量の個人情報が放置されていた。

私はそれほど覗き見趣味はないのですが、様々な個人情報の書類を片付けているうちに、元の家主さんの素性や家族構成など、いろいろなことが分かってきました。

元の家主さんは高齢のおばあさんのひとり暮らしで、子どもは一男一女の2人がいるようです。

2人の子どもはどちらも50代の半ばに差し掛かる年齢で、孫も何人かいるように見受けられました。

元の家主のおばあさんは80歳くらいですが、認知症で入院になったのを機に家を子どもが売りに出したようです。

それにしても、2人の子どもが家を売る時に一切片付けをしなかったことに、私は何とも言えない寂しさのような感情を抱きました。

家自体はだいぶ古くガタがきている物件ですが、2人の子どもにとっては実家にあたるわけですし、家を売る時に少しは片付けようと思わなかったのか、と感じたのです。

それに、いくら認知症で入院してしまったとは言え、子どもからすれば母親の個人情報を放置したままで気にならないのか、と思う気持ちもありました。

また、おばあさんの個人情報だけではなく、家族写真や記念写真もかなりの量が放置したままでした。

おばあさんのものと思われる卒業記念アルバム。かなりの年代物だった。

こちらは娘さんの卒園記念アルバム。記載されていた卒園年で娘さんの現年齢が推測できた。

かなり古い写真ばかりだったので不要なのかもしれませんが、放置したままで家ごと売りに出すのは、私にとっては理解できない行動です。

入院したおばあさんと2人の子どもの関係がどのようなものだったのかは分かりませんが、このような状態で家が売りに出されたことを考えると、何とも言葉にできない感情も湧き上がってきます。

今まで私にとって訳アリ物件やゴミ屋敷というのは遠い世界のように思えていましたが、いざ目の当たりにすると妙な寂寥感を覚え、身につまされる思いもありました。

しかし、感傷に浸ったままでは、いつまで経っても室内は片付きません。

私は自分を奮い立たせるようにしながら、荒れた室内を黙々と片付けるのでした。

(続く)

 

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